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2023.11.29東京
授業/特別講師/講演会
今回レポートする授業は「直伝プログラム」
第一線で活躍するプロフェッショナルに指導していただき、最先端の技術を学びます
また、今回の授業中は写真撮影OK!
お招きしたのは、数々の受賞歴を持つパティシエ・川野圭一講師です。
【PROFILE】
1987年生まれ、宮崎県出身。
名城大学農学部卒業後、製菓専門学校で学ぶ。
名古屋東急ホテルに入社、セルリアンタワー東急ホテルにてペストリー(デザート)部門に勤務後、
現在は名古屋東急ホテルのレストラン部門に勤務。
中部洋菓子技術コンテスト 最優秀賞(2012年)、
ジャパン・ケーキショー チョコレート工芸菓子部門 銀賞(2014年)、
銅賞(2016年)、ルクサルド グラン プレミオ 第5位(2015年)、
ジャパン・ベルコラーデ・アワード2017 銅賞(2017年)、
ジャパン・ベルコラーデ・アワード 2019 優勝(2019年)。
大型装飾菓子「ピエス・モンテ」の作り方をデモンストレーションしていただきます
<1. ピエス・モンテのデモンストレーション>
(1)チョコレートの土台に、チョコレートのクジラを取り付けていきます。
作業台を回転させ、前後左右のバランスを見ながら作業を進めていきます。
細かい部分の接着には、フィルムを円錐状に巻いて作った「コルネ」を使用します。
(2)造形を決め、色付け作業へ
土台の部分は食品用ラップで包み、「エアブラシ」(別名スプレーガン)を使ってクジラ全体を白く塗っていきます。
乾いたら、薄緑と濃い緑を混ぜてエメラルドグリーンを作り、「エアブラシ」を使いクジラの表面に色をのせていきます。
エメラルドグリーンが乾いたら、白とグリーンの境目を黒で縁取るように塗っていきます。
「黒を入れることで、深みや立体感が出ます」と川野講師。
土台にまいたラップをはがし、茶色でスプレーし、木のような質感に仕上げます。
(3)花のパーツにも、色付けしていきます
最後に土台の部分に「模様が切り抜かれたシート」をかざし、その上から着色します。
クジラはもちろんですが、花や葉のデティールも、非常に精巧で緻密です。
「チョコレート細工」の枠にとどまらない、芸術品です。
実演の後は、FIPGC Word Championship Best Pralineを受賞した
「柚子のボンボンショコラ」をデモンストレーション
調理しながら、メンバーからの質問を受け付けます。
――― コンクールに1回出るのに、どれぐらいのお金がかかりますか。
川野講師(以下、同)「コンクールによりますが、2年に一度開催される洋菓子の世界大会『FIPGC2023』は150くらいでしょうか」と言われて、ザワつく在校生。「クラウドファンディングでお金を集め、渡航費を払い、会場を借りて練習しました。チョコ細工を成形するシリコン型も、作るのにお金がかかるんです。シリコン1kgで3000円くらいでしょうか。シリコンから作ることで、オリジナルのモチーフを作ることができます。例えばクジラも骨格などは厳密でないかもしれませんが、個性を出すことができるんです」
――― コンクールの審査基準は?
「完成度と、芸術性、繊細さ。大会によっては作業性も含まれます。
また、バランス、安定感、立体感、奥行きなども総合的に評価されます。
チョコレートであればツヤも大事です。寒いところで磨くとツヤツヤになります。
審査員が評価するので、自分がつくりたいものをつくるんじゃなくて、相手のことを考える視点が必要ですね」
そして、「柚子のボンボンショコラ」ができあがりました!
チョコレート、ハチミツなどの濃厚な甘さと、柚子の爽やかなマリアージュが感じられます。
――― 川野講師のキャリアについてうかがいます。農学部をご卒業後、専門学校へ?
「そうですね。そのときは、お菓子の『お』の字も知りませんでした。
職人に憧れがあり、甘いものが好きという単純な理由でした。
就職難だったので、絶対に失敗できないというプレッシャーもありましたし、
この道で頑張ろうというのは覚悟していました」
――― 名古屋東急ホテルに就職された理由は。
「専門学校がメチャクチャ近いところにあって。シェフが教えに来ていたのもあって、
『どう?』『ぜひ!』と。就活が決まらずにどうしようと思っていたら、
たまたまホテルの欠員が出たというお話をいただきました。
クリスマスで今すぐ人手が欲しい、ということで学生のときにアルバイトから入り、1年後に正社員にしてもらいました」
――― ホテルの働き方について教えてください。
「8時から17時が定時で、オーバーすれば残業代が出ますし、休みも確保できます。
また、婚礼、宴会、イベントなども多く、色々な仕事ができるようになります。
心がけているのは、8時間で、最大のパフォーマンスができるよう準備しておくこと。
また、賞を取るとか、独立でもいいですし、いかに自分の市場価値を上げるかを意識することは大事だと思います。
一般的には、チョコ細工の道具や材料費などは自腹で払うことが多いですが、
一部のホテルは職場の設備や道具を貸してくれたりするところもあります。
光熱費、材料のサポートもいただけるのはありがたいですよね。
とはいえ、チョコレートは、毎回溶かして使うなど職場や周りのスタッフに負担をかけないよう工夫しています。
賞を獲得すれば、ホテルもパティシエもWIN-WINですよね」
――― 制作するうえで、どんなものからアイデアを得ますか。
「お菓子だけでなく、幅広いものを見る必要があると思っています。
インテリア、芸術、造形、粘土、彫刻、家具を作る人からインスピレーションやアイデアをもらうことも。
チョコレートはどんな形にもなりえるので、常にアンテナを張っている状態です。
お菓子の歴史を知ることも大切で、一般社団法人日本洋菓子協会連合会の『GÂTEAUX』という機関紙は、
会社の本棚に収蔵されるので、それを見て学ぶことも多いです。
作品に、ストーリーが感じられテーマ性があることも大事だと思います」
――― 「ジャパン・ベルコラーデ・アワード 2019」で優勝されていますが、どれぐらい準備をされたのですか。
「課題が出るのは半年前だったので、ガッツリ取り組んだのは半年です。
2017年に初めて『ジャパン・ベルコラーデ・アワード』に出たのですが、
3位で悔しい思いしました。2018年は会社が改装中で、横浜で働いていたのでチャレンジできませんでした。
なので、2019年は絶対に優勝するぞという気持ちでのぞみました」
――― ちなみに、チョコレート細工を始められたキッカケは?
「専門学校のときです。夏休みにコンクールがあり、学内選考があると聞きました。
せっかくの機会だからと思いチャレンジしたら大会に出ることに。
練習していて、『あ、楽しいな』っていう感覚がありました。
ホテルに就職しても、チャレンジできる環境でした。
先輩に『1年目からやっていいんですか?』と聞くと、『1年目からやらないやつが、2年目からやるわけがない』と言われて。
それなら、1年目からチャレンジしようと続けてきました」
――― 実際にチョコレート細工をするうえで、心掛けていることは。
「芸術性とチョコらしさ。今はチョコレートの色を活かすような使い方が求められていると思います。
僕はアウトローなので、青とかを使っちゃうんですけど(笑)。
ちょっと人と違うことやってやろうみたいな、野心があったりもします。
1人に100点よりは、みんなの平均点を取ったほうが勝ちやすいかもしれません。
でも、僕は誰かの心に響いてほしいと思い、アートだと思ってつくっています」
――― カッコいいですね!
「いえいえ。コンクール作品とアート作品とでは厳密には分かれますが、
コンクールであれば、多くの人に好まれるような題材やモチーフだと評価に繋がりやすい印象です。
芸術性と、大衆性とのバランスを取るのが難しいですね」
――― 作品は、食べても大丈夫ですか。
「もちろん、食べられます!色素も食べられますが、美味しいかどうかと聞かれると……。
最近は志向が変わってきていて、オーガニックで地球にやさしいものを使おうという業界の流れもあります。
パールパウダーと呼ばれるラメは、使用禁止になることも多いです。チョコレートも、ブラウン、ホワイト、ミルクがありますが、
その3色を上手に使って色を表現していく作品が多いです」
川野講師からご指導いただけたことで、コンクール出場への意欲、
マジパンやチョコレート細工制作への意欲が高まったのではないでしょうか。
今後、メンバーが作品への付加価値を高めていくための、ヒントをたくさんいただくことができました。
川野講師、素晴らしいデモンストレーションをありがとうございました。